ベートーヴェン ヴァイオリンと管弦楽のための“ロマンス” 第1番 ト長調 Op.40

By : クラシックワールド

Published On: 2017-03-01

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07:53

2曲あるロマンスはベートーヴェンのロマン性が最も強く出た作品です。
正式にはどちらも「ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス」の名を持ちます。
実際に作曲された順は、作品番号とは反対になっています。
すなわちまず、第2番ヘ長調Op.50が1798年頃に書き上げられ、
それから4年後の1802年頃に、第1番ト長調Op.40が作曲されました。
どちらも夢見るような叙情性と甘美な曲調が特徴ですが、 第1番には落ち着き払った品格があり、第2番は流麗で女性的と言えるかもしれません。
一般的には旋律がはっきりした、親しみやすい第2番の方がより広く知られています。
ベートーヴェンは田園交響曲やスプリング・ソナタ(ヴァイオリンソナタ「春」)などの、 自然を感じさせる牧歌的でのどかな曲に、しばしばヘ長調の調性を用いました。
そんなことからも、第2番ヘ長調からは女性的なものが感じられるのかもしれません。
そういえばロマンス第2番と「春」の第1楽章の主題はどこか似ています。
さて、今回の主役第1番ト長調に話を戻しましょう。
この曲が書かれた1802年の大きな作品と言えば、ハイドン、モーツァルトから離れて独自性を打ち出し始めた交響曲第2番があげられます。
そして、私生活のできごととしては何と言っても、 有名なハイリゲンシュタットの遺書が書かれたことに尽きます。
この年の5月から約半年間に渡るハイリゲンシュタットの滞在は、
ベートーヴェンに熟考の時を与え、その後の作曲に、いえ人生そのものに関わるような、 内的な変化をもたらしたことが遺書からはうかがえます。
というのも、死後の財産分与についての指示には、自殺の意図が読み取れますが、 同時に「牧人の歌が聴こえなかった時には、あわや自殺しようとしたこともある。
しかし、私の芸術だけがそうした思いから引き戻した。
生涯を終わらせずにこれたのも、徳と私の芸術のおかげだ。」
とも、10月6日と10日の2通の封書には記されているのです。
実際、遺書から程なくして、分厚いスケッチ帳を抱えてウィーンに戻った彼は、 自らの使命に目覚めたかのように、それまでにない筆致で次々と作品を仕上げ、 翌1803年から1804年にかけては、革新的な大作の英雄交響曲を完成させています。
ロマンス第1番ト長調の作曲の背景には、こうした激動の精神的変遷があったのです。
しかし、それを微塵も感じさせない程に、この曲はどこまでも穏やかで可憐です。

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